今年度から中学の英語の教科書が変わることについて 分析と対策

受容語彙・発信語彙とは?

いろいろと言われていますね・・・

 

「最初から難しい文法を扱っている」、「扱う単語量が倍増する」など・・・

 

特に大手塾などが、こういうことを、よくアピールしています。

 

商売のためにやっていることなので、しかたないことなのかもしれませんが・・・

 

少し目にあまります。


そんなに、心配する必要はありません

 

でも、確かに表面的にはそのようにみえるでしょう。

文部科学省の考え方が、世間にはほとんど伝わっていないのは事実です。

(たとえば、「受容語彙」と「発信語彙」なんて言葉、ふつうは聞いたことないですよね。)

 

また文科省の考え方を知っておくのは、各ご家庭にとっても、よいことでしょう。

 

なるべくわかりやすいように、説明してみます。

「最初から難しい文法を扱っている」・・・について

新しい教科書について、このように紹介されることがあります・・・

 

「1年教科書の最初のセクションから、これまでは1年生の最後にならう文法や、2年生の前半で習う文法が扱われている」

 

・・・確かに、こういわれると不安になりますよね。

 

でも、これって・・・何でもないです。

 

(1年生の最後にならう文法)というのは、助動詞 can を使った "I can ~.「私は~することができる。」" のことですし、

 

(2年生の前半で習う文法)というのは、不定詞を使った "want to ~「~したい」" を使った、"I want to ~.「私は~したい。」"・・・という表現のことです。

 

これらの表現は、現在では小学校で習う表現なのですが、これを「大丈夫」だという根拠にするつもりはありません。

 

文法的に完全に理解していなければ、表現してはいけないのか?・・・という問題です。

 

そんなこと、ないですよね。特にこれは、「言葉」に関することです。

 

「私は~したい。」や「私は~することができる。」というのは、会話の基本です。

まず言い方を覚えて、後からそのしくみ(英文構造)を理解する・・・という方法論はまったくアリですね。

 

実際、不定詞を使った表現といっても、1年生段階で出てくるのは "I want to ~." など、ごく基本の表現にとどまり、不定詞の文法については、2年生の今までと同じくらいの時期に、しっかり勉強するようになっています。

 

確かに考え方の転換を、求められているような印象を受けるかもしれません。

文法を習って、それを使って表現する(・・・あるいは、表現するとまで行かなくても、問題集などで解答する)ものだ、と私たちは思い込んでいました。

 

しかし、最初からそうでもないのです。

 

今まで英語を勉強してきた人たちも、文法を習ったから、表現あるいは解答できたのではありません。

 

習った文法で表現や解答する練習を繰り返したので、文法もしっかり理解できるようになった・・・と考える方が妥当です。

 

数学の解法や公式なども同じです。これらを習ったからできるのではなく、これはを使って練習するからできるのです。そしてできるようになってはじめて、その解法や公式に関する理解も固まります。

 

まして、英語は「語学」なので、なおさらです。

 

いわゆる「文法」なんて、突き詰めればたいした量ではありません。

 

たくさん読んだり書いたりしていくうちに、自分なりに法則性がみえてきて、はじめて役に立つ文法として身に付きます。そして、そういう勉強こそ大切だということは、今までと何ら変わりありません

 

とりあえず、この "want to ~「~したい」" に関しては最初に(それどころか小学段階)で便利な表現として知っておいて、中学2年生になって、文中での名詞・副詞・形容詞などの役割とともに不定詞として文法的に解釈することになるというのは、私としては異論がないどころか賛成です。

 

助動詞 can についても、順番が変わるだけなので、何の問題もありません。

 

むしろ否定文・疑問文のつくり方として、be動詞の文と一般動詞の文の別枠として、ついでに助動詞の文の否定文・疑問文のつくり方を早い段階で確認しておくのは、悪いことではないでしょう。

(塾でも、復習確認のカリキュラムでそいう順番で確認していくことも、よくあります。)

 

 

習っただけでは、勉強はできるようになりません。大切なのは、適切なトレーニングです。

ですので、今回の改定でも、それほど変わることはありません。

 

 

※なお、中学で新たに取り入れられる(今までは高校で学習)文法事項に、「現在完了進行形」、「原形不定詞」、「仮定法」などがありますが、これらに関しては別件なので、改めて別の記事にします。

 

 

「扱う単語量が倍増する」・・・ついて

単語数について、文部科学省の資料によると・・・

 

今まで:中学校で1200語

これから:小学校で600~700語、中学校で新たに1600~1800語、計2200~2500語

 

確かに、数だけ見せられると倍増しているように思えます。(改めてみると、思って当然ですね。)

 

ただし、この単語増に関し文部科学省は・・・

 

受容語彙(じゅようごい)」と「発信語彙(はっしんごい)」の区別を意識して指導するよう、はっきり求めています。

 

簡単に説明すると、「受容語彙」とは「聞けば意味が分かる言葉」、「発信語彙」とは「自分で使いこなせる言葉」のことです。

 

あたりまえのことなのですが、どんな人でも、発信語彙より受容語彙の方が多いです。

いえ、むしろ・・・受容語彙の中から発信語彙となるものも出てくると、考えていいでしょう。

母国語の習得は、まさにこれですね。

 

また、母国語(日本語)で考えても、本などもたくさん読んでいて豊富な受容語彙をもっている人は、豊富な発信語彙を持つことになるだろう・・・ということは、容易に想像できます。

 

一般に、受容語彙の半分くらいが発信語彙になると言われているそうです。

 

・・・とすると、文科省の意図がみえてきますね。

 

私の見解では(私だけでなく、教育関連従事者の中でけっこうみられる意見です)、この「受容語彙と発信語彙の区別」というのは、現実的にもっと甘い意味に使われるだろう・・・と予想されます。

 

やはり、テストとの関係が問題になってくるので・・・

 

発信語彙」:テストで解答するのに、使えるようにしておかないといけない語彙

受容語彙」:テストでの解答に、知らなくても大丈夫な語彙(長文などで出てきたら、脚注などで意味が紹介されるでしょう)

 

・・・ということに、なるでしょう。

 

単語数(受容語彙)が2倍になりましたが、テストに必要な発信語彙はその半分なので、今までと、まったく変わらないです。

 

さらに言えば、詳しく分析した人によると、倍増といっても、そのほとんどは小学校段階で出てくる、ごく簡単な単語だということです。

 

spaghetti(スパゲティー)、penguin(ペンギン)、broccoli(ブロッコリー)などが、これにあたりますが、これらは典型的な受容語彙ということになります。倍増といっても、これらの種の語が主で、新たに難しい語は、それほど増えない、ということです。

 

それでも、まだ不安だという方はいるかもしれません。単語数が増えるのは事実ですからね。

 

でも、本当に今までと変わらないです。

 

英単語を覚えられるかどうか?」や「そもそも英単語を覚えようとする意志があるかどうか?

・・・のほうが、はるかに大切です。

 

それに比べれば、前述の内容も合わせ、今回の単語数の増加なんて微増といえます。

 

 

まだありますよ。

 

前述の文法の話にも通じますが、むしろ今までの方がぎくしゃくした部分がありました。

メリハリの問題・・・ともいえることです。

 

今までは、出てきた単語はすべて(ここでいうところの)「発信語彙」にしなければいけない・・・という雰囲気がありました。

 

でも、そんなことはないですよね。

 

命がけで覚えなければいけない単語もあれば、わざわざ覚えなくてもいいような単語もあります。

(他の教科でも、そうですね。勉強ができる子は、どこが大切か見極めるのが上手です。)

 

 

しかたがない面は、あります。

まじめな子は、出てきたものは、すべて覚えないといけない、と思ってしまうでしょうからね。

 

今回の、受容語彙の中から発信語彙をつくっていく・・・という方法論は、この面からも生徒さんたちの能力を伸ばす一助になるだろうと、期待されます。

 

「何が大切なことか?」、「どの表現を使えるようにしておかないといけないか?」は今までも、テストなどで、もっとも求められる能力であったことには、ちがいがありません。

 

ですから、単語数が増えたからといって、今までと変わりません。 

 

 

むしろ、いいことがあります。

 

1000の発信語彙(ここでは、文法的にも使い方などしっかり理解している語彙)をつくるために、2000の受信語彙を持つのは、有効なことです。

 

また、今では自分で表現する問題も多く、これからも増えていくでしょう。

 

例えば、wheelchair(車いす)は受容語彙に分類されるでしょうが、福祉の分野に進みたいと考えている人は、積極的にそれを発信語彙にしていけばよいです。

 

そのような自主性は、かならず成長につながります。