なるほど。それももっともです。
原子なんていう目にはみえないほど小さなミクロ(極小)の世界で、誰か本当に酸素原子が2個セットになってるのをみたのかよ
・・・と、つっこみたい気持ちもわかります。
そこで今回は、高校化学で勉強する内容に少し入って、分子説がどのように出てきたのかを、みていきましょう。高校化学(化学基礎)の最初の方で勉強する化学史の内容も含みますので、高校生の方もどうぞ。
そもそもの話として・・・
自然科学とは、創意あふれる実験や観察の積み重ねです。
また、それについてなぜそうなるか?・・・すぐれた考察を元に科学者が説(仮説)を出します。
また、その説を受けて、その説を確認、あるいは否定するため、また実験や観察が積み重ねられます。
実際に、化学反応で原子の組み合わせが変わって別の物質になることや、
光合成で植物が無機物から有機物をつくることを、
誰かが、ミクロの世界でおこっていることを直接みたわけではありません。
研究者たちの努力の積み重ねを受けて、
今、確実に正しいといえるだろうということだけが、
小・中・高の理科の教科書にのせられています。
今回、これが大切なことなので、
植物の光合成を例に、もう少しみておきましょう。
私たちにとって、光合成のしくみはけっこうあたりまえです。
しかし、これも、 まさにみなさんが小学校や中学校で体験した実験や観察・・・
植物に光を当てると、
・・・ある実験で二酸化炭素が発生することを確認し、
・・・ある実験で酸素が発生することを確認し、
・・・また、ある実験でデンプン(有機物)がつくられることを確認し・・・
こういう実験を積み重ねることで、だんだんとその仕組みがわかってきました。
シンプルにみえる実験・観察でも、それを最初にやった人の名前が残ったりしているものです。
上記の実験どころか、さらに昔には
ネズミをガラスケースの中に入れておくと、死ぬ
→ 空気の中には、生物が生きていくのに必要な何かがあるらしい。
ネズミの入ったガラスケースの中に火のついたろうそくを入れると、火は消えるし、ネズミもより早く死ぬ
→ 空気の中にある生物が生きていくのに必要な何かを、火は「食べて」しまうらしい
ネズミの入ったガラスケースに日のあたる環境で植物を入れておくと、ネズミはわりと長く生き残る
→ 植物は生物が生きていくために必要な空気中の何かを、つくるのかもしれない
(ガラスケースの中のネズミさんが、その植物を食べてしまったらどうしよう?・・・と、ハラハラしますね。)
私たちは、この何かとは「酸素」のこととすぐにわかりますが、最初は本当にこういうところからスタートしています。
話を化学に戻します。
ドルトンが「原子説」を出す前にも、いくつかの法則が発見されていました。
中学の教科書に出ているもので言うと(一応参考に、それが発表された年とそれを発表した学者名も入れておきます)、
「質量保存の法則」(1774年:ラボアジエ)
「化学変化に関係する物質の質量の比はつねに一定(例:一定の質量の銅に結び付く酸素の質量には限りがある。など・・・これを定比例の法則といいます)」(1799年:プルースト)
これらは、実験で確かめられ、他の人が実験しても同じように再現されるものなので、「法則」という名前が付いています。
だれでも、それが本当のことだと確かめられるのが「法則」と考えていいでしょう。
その後、
ドルトンが、原子説を唱えました。
ドルトンさんは、すべての物質は、(気体でも液体でも固体でも)目にはみえない極めて小さい粒子が集まってできているとし、その粒子を原子とよぶことにしました。
ドルトンは、原子について、
①それ以上、分けられない
②新しくできたり、なくなったり、種類が変わったりしない
③種類によって、その質量や大きさが決まっている
・・・など、原子の性質を定義しました。
これらの原子の性質を合わせて原子説です。1803年に発表されました。
原子説を使うと、上記のような法則をうまく説明できたので、当時から広く受け入れられました。
(また、ご存じのようにこの考え〔原子説〕は現在にも引き継がれ、化学研究の土台になっています。)
「ところが」です・・・
原子説では説明しきれない法則が出てきました。
「気体どうしの反応では、反応に関わる気体の体積には簡単な整数の比が成り立つ」(気体反応の法則:ゲーリュサック:1808年)
これも「法則」です。
本当にそうなるので、そうなることに誰も文句は言えません。
この法則を、ドルトンの原子説で説明を試みてみましょう。
話を分かりやすくするために、水の生成反応(水素+酸素→水)で話を進めてみます。
水も水蒸気(気体)にしたときの体積にすれば、この法則は成り立ちます。
(実際には同じ温度・圧力で体積を調べる必要があるので、例としては不適かもしれませんが、わかりやすいのでこれでいいです。後述のアボガドロが考察を進めたのもこの反応ではないでしょうが、大目にみてください。)
体積でいうと、水素が「2」に対し、酸素が「1」の割合で反応します。
生成する水は、水蒸気(気体)に換算すると「2」になります。
体積の比は、「水素:酸素:水蒸気=2:1:2」ということです。
(下図の立方体は、反応に関わる気体の体積とし、体積の比を立方体の数で示しています))
これがどいうことか?・・・原子を使って説明を試みます。
気体は粒子(りゅうし)と粒子の間隔が広く、自由に飛びまわっている状態だと考えられます(実際、現在ではそう考えています)。
粒子の大きさに関わらず、粒子1つあたりが占める体積が決まっているとしてみましょう。
上段の水素・酸素の体積を表す立方体に、それぞれ1つずつ水素原子・酸素原子を入れてみましょう。
ここまでは何の問題もありません。
「水素原子:酸素原子=2:1」で反応してるんだろうな~…ということです。
しかし、水蒸気の体積が困ったことになりました。
水素と同じく、立方体2つ分の体積です。
粒子が2つなければいけません。
水素原子は1つずつ分けて入れればいいですが、
酸素原子は上段に1つしかないので、半分に分けて入れなければいけません。
これは、「原子はそれ以上分割できない」とするドルトンの原子説と完全に矛盾(むじゅん)です。
それは、「原子説では、気体反応の法則を説明できない」…ということを意味します。
ここで、・・・
アボガドロという人がすごいことを思いつきます。それが・・・
アボガドロの分子説(1811年)
・・・です。
水素原子や酸素原子は単独ではなく、2個ずつセットになっていると仮定してみました。
今度は水蒸気(気体)の体積もうまく説明できそうです。
水素原子は2つずつ、酸素原子は1つずつ分ければいいですね。
これで説明が付きます。
アボガドロが発表したのは『仮説』ですが、各種の化学反応を説明するのに困ったことはなく、
また、さまざまな化学的現象をうまく説明できるので、現在では広く受け入れられています。
水の生成の化学反応式も、「2H₂+O₂→2H₂O」と現在は表されていますが、アボガドロの考えたものそのままですね。
みなさんは、「水素原子は手が1本、酸素原子は手が2本で、手があまらないように結合する」…というような説明を聞いたことがあるかもしれませんが、それもこの「分子説」と何も矛盾(むじゅん)しません。
また、分子の形から、いろいろな自然現象を説明できることも多いです。
最後に、「原子説」と「気体反応の法則」の矛盾を解決したアボガドロの「分子説」
…発表当時から、化学の世界に大きなインパクトを与えたのだろう…と思う人もいるかもしれませんが・・・
そんなことありません。
アボガドロの説は、当時としてはあまりに大胆な仮説だったため、空想的だとして受け入れらませんでした。
ドルトンもこの分子説に対し、「そんなバカな話があるものか」と一蹴(いっしゅう)したという話もあるくらいですね。アボガドロの功績が認められたのも、彼の死後のことです。
中学生のみなさんも、この「分子説」はあまりピンとこない…という声はよく聞かれます。
考えてみれば、ドルトンさんがわからなかったものを、私たちが最初ピンとこない…というのは、無理ないことなのかもしれませんね。
付記
『気体反応の法則』と『原子説』との矛盾のところで、「粒子1つあたりが占める体積が同じ」と仮定したところが違っている可能性もあるのでは?・・・と思った人もいるかもしれません。
おそらくですが、アボガドロの説を批判したくて、そのように考えた化学者もいただろうと思います。
しかしながら、安心してください。
これこそ、アボガドロの功績として、しっかり残っていることであります。
「すべての気体は、同温・同圧のとき、同体積中には同数の分子が含まれている」
・・・これが、アボガドロの『法則』と呼ばれているものです。
(彼の「分子説」の主眼も、もしかするとこちらにあったのかもしれませんね)
『仮説』は実験などで正しいと証明されて、初めて『法則』となります。
アボガドロの仮説は、彼の死後、化学的に証明され、
アボガドロの法則は、人類の化学研究の大きな土台になってきました。
以上です。
ご意見・ご感想、お待ちしています。
下のコメント欄からどうぞ。
無料体験授業も、受付中です。
英語の文法や、数学の各単元など、教科書で習う内容を、時期に合わせ無料で配信しております。
LINEで、学年ごとのグループ(保護者様向け)をつくって配信していますので、お気軽にどうぞ。
コメントをお書きください