「共通テスト」に代わって、問題文をしっかり読むことがより大切になった・・・という講評を、よくみかけますが、「問題文をしっかり読まなければいけない」・・・なんて、あたりまえですからね。
共通テスト「数学」では、ちょっとどうかな?・・・と思われるよぶんな文もみられますが、「化学」は大丈夫です。
しっかり読める人に、より有利なように問題がつくられています。
特に第5問になると、受験生のみなさんも、ここまでめいいっぱい頭をふりしぼって、すでにけっこう頭が疲れている状態です(それが理想の状態ですよ)。
出題者もそれに配慮し、第5問ではしっかり問題文を読みさえすれば、あまり考えなくても答えを出せる問題構成になっています。(本当ですよ。さすが共通テストというべき、すばらしい問題構成です。)
それでは、問題をみていきましょう。
まず、問1に与えられている問題文を、しっかり解釈しましょう。
受験生には、すでに分かっている内容もありますが、今回の問題でどこに注意を向ければいいか?を確認することが大切です。
グルコースの水溶液中での平衡状態についての説明が与えられています。
内容を読み取って、テスト用紙のスペースに・・・
「 α ⇄ 鎖式 ⇄ β 」・・・くらいでいいので、メモしましょう。
また、『ただし』で与えられている「鎖状構造の分子の割合は少なく無視できるものとする」・・・という情報も大切です。こういう情報は、問題を解くために必要だから、与えられています。
また、「方眼紙」も使った方がいいので与えられています。
(「使うと、かえってわかりにくくなる」・・・なんていじわるを、しているはずがありません。)
実験 Ⅰ の内容に入ります。
心配しなくても絶対に使うので、表1の内容を方眼紙にとりましょう。
横軸を「時間(h)」、縦軸を「α-グルコースの物質量(mol)」としましょう。
太線(太枠)の方でみて、横軸はちょうど1目盛り1時間で右端のめもりが表1の最大値である10時間、縦軸も
10めもりあり、α-グルコースは初期状態で0.1molありそこから減っていくので、0.01molずつめもりをとって、ピッタリです。(bのところで図をあげておきます)
細線の方で、表1に与えられている数値もすべて正確にとれるので、ここは少し時間をかけて正確にとっておきましょう。後で楽になります。
α-グルコースの物質量が、0.032molまで減少したところで平衡に達したことも、確認しやすいです。
点と点の間は、本来はなめらかな曲線ですが、ここでうまく引けないとかいって時間をとるのももったいないので、ほぼ直線で結べばよいです。フリーハンドなので、そのくらいでちょうどいいです。
α-グルコースとβ-グルコースは、分子の形が少し違うだけなので、もちろん物質量1:1で変化します。
問題文のただしで、鎖状構造の分子の割合は無視できる、とありますので、平衡状態に達するまでに減少したα-グルコースの物質量が、そのままβ-グルコースの物質量と言えます。(表1や方眼紙で減少したα-グルコースは、すべてβ-グルコースに変化したと考えてよい、・・・ということです。)
方眼紙にとったグラフから、平衡状態でのα-グルコースの物質量は、0.032molでした。
減少したα-グルコースの物質量は、「1-0.032=0.068」より0.068molで、これがそのまま生成したβ-グルコースの物質量になります。
正解:④
a問題でも確認したように、「(α-グルコースの物質量)+(β-グルコースの物質量)」が常に一定で1mol・・・ということが、ポイントになります。(この考え方が、次の難しめのc問題にもつながります。)
β-グルコースが平衡に達したときの物質量は、aで確認した0.068mol。
その50%というので、β-グルコースが「0.068÷2=0.034」より、0.034molのときのことです。
α-グルコースの物質量は「1-0.034=0.066」より、0.066mol・・・
方眼紙にとったグラフで、α-グルコースが0.066molのところをみてみましょう(下図参照)。
ちょうど、1時間後くらいだということが確認できます。
正解:②
なお、選択肢から選ぶ問題なので、表1で与えられた値から、・・・
選択肢①0.5時間後:0.079mol・・・まだ多い
選択肢③1.5時間後:0.055mol・・・減りすぎ
・・・ということで、間の選択肢②1.0時間後で、まちがいないと確認できます。
大丈夫です。難しくないです。必要な情報をとり出しましょう。
ここまでは、「合わせて0.1mol」・・・という状況で考える問題でした。
実験Ⅱで加えたのが、α-グルコースでもβ-グルコースでも関係ありません。「(α-グルコースの物質量)+(β-グルコースの物質量)」が常に一定で0.2mol・・・となっただけです。
「20℃で10時間放置」・・・という記述にも着目です。
実験Ⅰと同じ条件で、実験を行ったということです。
平衡定数は同じはず・・・ということになります。
平衡定数はモル濃度(mol/L)で定義され、α-グルコース、β-グルコースのモル濃度をそれぞれ[α]、[β]とすると「[β]/[α]([α]分の[β])」と表されます。
実験Ⅰは、水1.0Lにグルコースを溶かしているので、表1から得られる平衡状態の物質量を、そのままモル濃度として使えます。
実験Ⅰの平衡定数から調べてみましょう。
aより20℃でグルコースは、α-グルコース:0.032mol/Lに対し、β-グルコース:0.068mol/Lです。
平衡定数をKとして・・・(以下、数式が多いので一部画像に切り替えます。スマホでご覧の方は、サイズにお気をつけください。)
・・・後は、両辺÷25なので、3.4÷25の計算です。
ピッタリわり切れて、0.136(mol)となります。
正解:④
なお、「平衡定数」の意味さえしっかり理解できていたら、最初から・・・
・・・という等式を立てて、処理してもいいです。
この計算も、まず(左辺)の分母を簡単にすることから考えはじめましょう。
とてもおもしろいですし、すばらしい問題と言えます。
けっして、ひっかけ問題なんかでは、ないですよ。
問題のポイントは、問題文の中の・・・
「Xの水溶液は、還元性を示さなかった。」・・・という情報です。
この情報をしっかり消化できれば正解できるし、できなければ正解できない、というタイプの問題です。
読み流さないで、これについて第一に考えましょう。
まず、図1で最低限のことは確認しておきましょう。
図でいうと、右端の炭素原子に結びついている-H と-O-CH₃ が上下反対で後は同じ異性体とわかります。
α-グルコースから「α型」が、β-グルコースから「β型」が生成するということでいいでしょう。(グルコースの分子の形は、各自教科書等で確認しておくこと。)
問1では、α-グルコースとβグルコースが互いに変化し、平衡状態に達することを確認しました。
この問いの、「α型」と「β型」もたがいに変化するのでしょうか?
勘(かん)ではいけませんよ。きちんと根拠をみつけないといけません。
図1の物質は、ほとんどの受験生にとって初見の物質です。
テストの場で、受験生がしっかり考えて答えを導くことを、出題者側は求めています。
そこで、「Xの水溶液は、還元性を示さなかった。」という情報が、ポイントになってきます。
還元性を示さないということは、どういうことか?
「α型」と「β型」で考えても、わからないでしょう。何しろ初見の物質です。
そこで、α-グルコースとβ-グルコースについて考えてみます。
グルコースは、確かに還元性を示しました。(グルコースをはじめ単糖類は、すべて還元性を示します。)
この、グルコースの還元性は、どこからくるものだったでしょうか?
・・・そうです。
環が開いた鎖式構造のグルコースがアルデヒド基-CHOをもち、水溶液中に鎖式グルコースが一定量存在しているので、グルコースは還元性を示します。
よって、化合物Xが還元性を示さないということは、化合物Xは鎖式構造をとらない・・・ということです。(図1をみても、α型、β型にはアルデヒド基がないので、そのままでは還元性を示しません。)
グルコースは、「α‐グルコース ⇄ 鎖式グルコース ⇄ β-グルコース」と、鎖式グルコースをはさんで、α‐グルコースとβ-グルコースは互いに変化しました。
化合物Xが鎖式構造をとらないということは、α型とβ型が互いに変化するということが、ないということです。(図の右端の炭素電子に結びついている原子・原子団が上下反対なので、一度、環が開かないと入れ変わりようがないですよね。)
よって、α型は変化することはなく、正解は①になります。
なお、長い説明になりましたが、ちゃんと勉強できている人なら・・・
「還元性を示さない」→「鎖式構造をもたない」→「変化しない」と、
直線的に正解にたどりつけた人もいるでしょう。
正解:①
他の選択肢も、軽く確認しておきます。
まず、まちがえるとしたら③だったでしょう。
最初に方眼紙につくったα‐グルコースの物質量変化と同じような形です。
しかし、③を選ぶとすると、なぜ④ではないのか?という疑問が残るはずです。
α型よりβ型の方がはるかに安定で、すべてβ型に変化する可能性もあるはずです。
ところが、これらに関する情報は一切与えられておらず、③④はともにまちがいと判断できます。(もっとも、「還元性を示さない」という情報をまったく使っていない時点で、これらの選択肢は確実にまちがいです。)
②はないですね。ふつう、反応速度は物質の濃度によります。
たくさんあるときは反応速度も速く、量が減ってきたら反応速度も減っていくので、②のような直線的な変化は考えられません。
前問が最後のピークでした。
ここから先は、優勝チームの消化試合のようなものです。
びっくりするほど軽いですよ。
まず、Yからです。Yは還元性を示す、と明記されています。
アルデヒド基-CHOを持っているということです。
これで、③か④のホルムアルデヒド H-CHO にしぼられます。
(この問題は問2のフォローにもなっていますね。問2で③と答えてしまった人でも、ここで「還元性を示さない」ということの意味に気づき、①に直せた、・・・ということもあったでしょう。)
Zはもっと軽いです。「Yは還元剤としてはたらくと」ということは、Yは酸化されるということです。
アルデヒドは酸化されるとカルボン酸になりました。(第4問問3aの解説も参照)
ホルムアルデヒド H-CHO は酸化され、ギ酸 H-COOH になります。
正解:④
・・・と思ったら、銀鏡反応だけでは選択肢の⑤⑥は消せないですね(コメント欄で指摘を受けました)。
ギ酸HCOOHも、アルデヒド基-CHOをもっているので、銀鏡反応を示します。
こちらは、後半の条件から消せます。
「還元剤としてはたらく」ということは「酸化される」ということですが、⑤、⑥ともY→Zの変化で、酸素原子が減っている(⑤では、それに加え水素原子が増えている)ということから、間違いと判断できます。
逆に考えてもいいです。
正解の選択肢④のように、Yが酸化されるとZになるとすると、Zは還元されてYになるはずです。
メタノールCH₃OH(⑤のZ)は酸化されると、ホルムアルデヒドHCHO(⑥のZ)を経てギ酸HCOOHになるので、逆の方向ですね。
なお、ギ酸が酸化されると、(H原子がとれて)二酸化炭素を発生します。
軽いですよ。
予想ですが、これから先もこの位置(最後の問題)には、「一見、難しそうだけど、取り組みさえすれば、ものすごく簡単」・・・というタイプの問題がくるように思います。
Y・Zとも、炭素原子数が1の有機化合物です。
炭素原子の数だけで考えれば、十分です。
Yが2mol、Zが10molで、計12mol・・・炭素原子の数も12molです。
グルコース1分子には、炭素原子は6個含まれています。
グルコース1molの中に、炭素原子は6mol含まれているということですね。
今、炭素原子が12molあるので、元となったグルコースは2molだったということです。
正解:①
補足です。問題の完成度を確認しておきましょう。
問3のリード文とa問題で、グルコースを分解して、アルデヒドであるYとカルボン酸であるZができることを確認しました。
この段階で、Yになる炭素原子は、環が開いて鎖式構造になるときアルデヒド基をもつ炭素原子だろうと、推定できます。そして、残り5個の炭素原子がカルボン酸Zになるだろうと推定できます。
b問題に入って、Y:2molに対してZ:10molなので、推定が正しかったと判断できます。
そう考えれば、Yが2molなので、元になったグルコースも2molだと、判断できますね。
以上です。ありがとうございました。
コメントなどいただけると、とてもうれしいです。
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井出進学塾 (月曜日, 01 1月 2024 10:17)
to OKさん
コメントありがとうございます。
共通テスト、がんばってくださいね。
OK (日曜日, 31 12月 2023 19:15)
丁寧な解説でわかりやすかったです!
ありがとうございました!!
井出進学塾 (土曜日, 25 11月 2023 10:29)
to HLさん
コメントありがとうございます。とても、はげみになります。
2023年度のものも、何とか早めに仕上げようと思います。
共通テスト、がんばってくださいね。
HL (木曜日, 23 11月 2023 22:48)
化学があまり得意ではなく、某予備校などの解説ではわからないことが多かった為非常に助かりました。どの問題の説明も非常にわかりやすく、捨て選択肢の解説も入っていて、とても勉強になりました!共通テスト頑張ります�
井出進学塾 (土曜日, 07 1月 2023 21:38)
to ハヤテ さん
コメントありがとうございます。お役に立てているようでうれしいです。
ご指摘も、ありがとうございます。
ギ酸も銀鏡反応を示すので、確かに前半の条件だけでは⑤⑥は消せません。
最後の方で、答えがすぐみえたので、油断してしまったようです。
みなさまにも失礼しました。
明日にでも改めて修正しておきます。
ギ酸は酸化されると二酸化炭素を発生します。
これをもし知らなかったとしても、YとZの関係から、答えは導けるので、そこら辺を補足しておきます。
ありがとうございました。
ハヤテ (土曜日, 07 1月 2023 21:09)
今まで見た解説の中で圧倒的に1番分かりやすかったです。とても質のいい復習をさせて頂きました。
一つ質問です。問3のaについて、「ギ酸HCOOHはカルボン酸だが-HCOの構造をもち、銀鏡反応を示す」という認識だったのですが、前半の条件だけで⑤⑥も消去できるのでしょうか?ご教授いただけますと幸いです。
改めまして、素晴らしい記事をありがとうございます。共通テスト一週間前にして今更ながら効果的な復習の仕方がわかった気がします(笑)
to オットセイ さん (月曜日, 02 1月 2023 20:34)
コメントありがとうございます。
有効に使えてもらえたようで、こちらとしても、うれしい限りです。
共通テスト本番も、がんばってくださいね。
オットセイ (月曜日, 02 1月 2023)
全問題の解説読ませていただきました。冗談抜きで今まで見たどの問題解説記事よりも丁寧で分かりやすく、過去問演習が中身の濃いものとなりました!本当にありがとうございます!
井出進学塾 (土曜日, 10 12月 2022 13:19)
to 氷華 さん
コメントありがとうございます。お役に立てたようで、よかったです。
共通テスト本番でも、がんばってくださいね。
氷華 (土曜日, 10 12月 2022 09:28)
共通テストの過去問を解いたものの解説がなくて困っていたので、とても助かりました。考え方まで丁寧に記されていて勉強になりました。
井出進学塾 (火曜日, 04 1月 2022 12:30)
to a さん
「直前期によい復習ができた」というようなコメントは、本当にありがたいです。
健闘をお祈りします。がんばってくださいね。
a (月曜日, 03 1月 2022 15:08)
とても分かりやすかったです!直前期に、良い復習ができました!ありがとうございます!